大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和33年(ネ)439号 判決

控訴人 屋成一夫 外一名

被控訴人 大貞木材工業株式会社

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人両名は被控訴人に対し各自金二五〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三一年五月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払わなければならない。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてその五分の一を被控訴人の負担とし、各五分の二を控訴人等の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」という判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠関係は、被控訴代理人において「原判決二枚目裏七行目から三枚目表三行目までの被控訴人の事実上の主張を次のとおり変更する。すなわち、被控訴人は約旨に基き昭和二九年三月残代金六五万円を準備して伐採に着手すべく山元を調査したところ、本件立木に関する訴外渡辺隆美と訴外松永好孝間の売買契約は、買主たる松永好孝において代金を支払わなかつたため解除され、松永好孝が被控訴人に本件立木の売買契約を履行することが不能となつたことを知つたので、被控訴人は同年三月中右松永に対し本件売買契約を解除する旨を申入れ、同人も解除を承諾した。そこで松永は被控訴人から先に受取つた本件売買代金の内金五〇万円を被控訴人に返還する義務がある。そして控訴人両名は売主たる松永のために連帯保証をしたものであるから、両名連帯して右内金五〇万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある」と陳述し、当審において被控訴会社代表者大森文治の尋問を求め、控訴代理人において「本件売買契約が合意解除されたことは否認する。仮に控訴人等が本件売買契約について売主のため保証をしたとしても、それは連帯保証ではなく単純な共同保証であるから、主債務の各半額について保証責任があるに過ぎない」と述べ、当審において控訴本人両名の尋問を求めた外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

成立に争のない甲第一号証、原審証人原庫太の証言、同証言によつて成立を認め得る甲第二ないし第四号証、原審及び当審における被控訴会社代表者大森文治の尋問の結果を綜合すると、被控訴会社は昭和二八年一一月三日訴外松永好孝との間に、同人から本件二筆の山林に生立する杉立木五五〇本を代金一八〇万円で買受ける旨の売買契約を締結し、控訴人両名は右売主のため保証をなしたこと、及び被控訴会社は右代金の内金として同月四日及び同月二二日の両度に現金を以て各金二〇万円を松永に支払つた外、同月二四日に額面金一〇万円、満期同年一二月二五日、株式会社大分銀行中津支店払いの約束手形一通を松永宛てに振出し、満期前同年一二月二一日に該手形の被裏書人である訴外株式会社西日本相互銀行中津支店に該手形金を支払い、結局合計金五〇万円の内金を支払つた事実を認めることがでる。控訴人等の保証が連帯保証であることについては、これを認むべき何等の証拠もない。控訴人等は、甲第一号証に控訴人等が署名押印したのは保証人となる趣旨ではなく、立会証人となる趣旨によるものであると主張し、原審及び当審の本人尋問における控訴人両名の供述中にも、その趣旨の供述があるけれども、これらの供述は前記証拠に照し採用することができない。

次に前記甲第一号証、日本電信電話公社の日附印の成立に争がないことと文書自体の形式からみて全部真正に成立したものと認められる甲第五号証の一ないし四、原審証人渡辺隆美の証言、原審及び当審における被控訴会社代表者大森文治の尋問の結果を綜合すると、松永は訴外渡辺隆美との間に同人から本件杉立木を買受くる旨の売買契約を締結していたので、該立木についてさらに被控訴会社と本件売買契約を締結したのであるが、渡辺に代金の一部を支払つただけで残代金を支払はなかつたため、渡辺との右売買契約は同人によつて解除され、そのため被控訴会社に対し該立木の所有権を譲渡することができなくなつたこと、そこで被控訴会社は立木を伐採することができないので、やむなく昭和二九年三月頃松永に対し本件売買契約の解除を申入れ、かつ先に支払つた売買代金の返還を求めたところ、松永は右解除を承諾し近日中に代金を返還することを諒承しながらこれを履行しない事実を認めることができる。控訴人等の援用する証拠によつては右認定をくつがえすに足らない。

ところで売主の保証人は反対の事情がない限り、売主の責任によつて売買契約が解除された場合における売主の代金返還債務についても保証の責任があるものと解するのが相当であつて、前記認定の事実関係によれば、本件売買契約は売主たる松永の責任に帰すベき事由によつて売買契約を履行することができないため、やむなく合意解除されたものであるから、売主の保証人である控訴人両名は松永の受領した前記代金五〇万円の返還債務ついて平等の割合で保証の責任があるものといわなければならない。

従つて控訴人両名は被控訴会社に対し各自右代金の半額にあたる金二五万円及びこれに対する本件訴状が控訴人等に送達された日の翌日であることの記録上明らかな昭和三一年五月二四日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があること明らかであつて、被控訴会社の本訴請求は右の限度において正当としてこれを認容し、その他は失当として棄却しなければならない。

よつて被控訴会社の本訴請求の全部を認容した原判決は不相当であつて、本件控訴は一部理由があるから原判決を変更すべきものと認め、民事訴訟法第九六条第九二条第九三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 竹下利之右衛門 小西信三 岩永金次郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例